株式会社Smart119|安心できる未来医療を創造する

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起業ストーリー

【救急救命医療現場からの起業】ICTの力で、未来医療を創造したい

千葉大学発のスタートアップ企業である株式会社Smart119は、救急医療の現役医師である、同大学大学院医学研究院救急集中治療医学教授(当時は講師)、中田孝明によって2018年5月に設立されました。

同社は現場で起きている課題を、ICT(情報通信技術)により解決することを目指しています。救急医療機関の収容力が不足して搬入困難となる、言わば「たらい回し」を解消し、深刻な社会問題を解決することを目的として起業しました。

中田は「治療を一刻も早く開始しなければ『命』が途絶えてしまう」と救急救命現場の状況を表します。「たらい回し」の問題を克服しなければならないと考えました。

救急集中治療医師として:「不幸な転機」にならないためにも

「『救命』に取り組む救急医師の特徴は、さまざまな困難に、すぐに対応が求められることです」と中田は話します。

救急車で急患者が搬入される原因のほとんどは、急激な容態悪化によるものです。患者自身の回復力が望めず、医師の適切な治療が必要です。

例えば、搬入時に心肺停止状態に陥った場合では、電気ショック、胸骨圧迫による心臓マッサージ、そしてアドレナリンなどの薬液投与の心肺蘇生法を、急ぎ実施しなくてはなりません。

急患者の困難に駆けつけ、搬入する救急隊と、的確な医療で応える病院との「命を救う」連携には、一刻の猶予もありません。

「この時が患者さんにとって『不幸な転機』にならないように対応しよう。そのために早く病院に到着してほしい。我々は治療態勢を完全に整えて受入したい」と中田は搬入口で常に思いつづけます。

株式会社Smart119代表取締役・中田孝明は、千葉大学附属病院救急救命センターで救命の第一線を担う。

現場にあった課題点:救急救命のもどかしさ

「在院医師が少ない夜間に多重交通事故が発生したことがあります。その後の搬入では、充分な数の医療スタッフを集合させる要請に苦労しました」中田は、救急現場にスタッフとして加わって、最初に感じた救急の課題点を語ります。

外来診療と異なり救急搬入は時を選びません。休日や夜間では医師、看護師の人数は少なく、集合要請をして相応の人員を整えることに迫られます。多重事故で急患者が多くて人手が足りない、専門医執刀の緊急手術が必要、など状況はさまざまです。

従来の集合要請は、メールか電話連絡網でした。メールではスタッフが受信したかどうかの確認に、電話では連絡が行き渡るまでに時間を要します。さらに集合するスタッフに対する容態などの状況説明が必要で、治療を始めるまで時間がかかります。

急患者を目の前にして治療自体よりも「業務連絡」に追われることにもどかしさを感じ、その時間的なロスが、「救急搬入のたらい回し」につながっていることに気づきます。

受入された急患者には、迅速で適切な初期医療が求められる。

課題解消のために:受入体制を万全にするACES(Acute Care Elastic System)の開発

中田は、海外留学時に、日本のIT技術の高さを実感しました。

自身が専門とする遺伝子研究の解析を依頼したところ、短期間で完了して高精度データを作成してくれたのです。コストも安価でした。品質と価格で、現地IT会社を凌駕していました。

また当時、デジタル端末(スマートフォン、タブレットPC)の普及率が高まっており、クラウドによって端末間で情報共有が一般化してきました。こうしたデジタル環境の中で、ICT(情報通信技術)が飛躍的な発展をみせていたのです。

救急の現場にある課題を、IT技術で解決できるのではないか。中田は、「救急時職員呼び出しシステム」の開発に挑みました。

シンプルな操作感と、新たな機材を必要としないことを重視しました。数回のタップだけで、求める人員を呼び出せ、既存の病院PC、職員が持つデジタル端末を利用するシステムを構築しました。災害派遣チーム(DMAT)の育成機関である大阪府泉州救命救急センターと、中田が陣頭にたつ千葉大学附属病院救急医療センターで、試作実装を行いました。

現場スタッフによって、機能性と実用性がブラッシュアップされていきます。やがて、救急受入数が増え、なおかつ同じ職員数で治療が行えることがわかりました。救急車が到着する前に、職員が集合し、緊急手術が必要な場合では専門医が準備を完了している、望ましい態勢で受入できるようになったのです。

劇的な改善を現場職員が実感します。これは「命を救う機会」が増えた喜びを伴うものでした。

こうして、柔軟で万全な受入態勢づくりを支援するシステム「アキュート・ケア・エラステック・システム(ACES)」が誕生しました。

課題解消のために:救急隊と情報も共有するSmart119の開発、そして起業

「早く受入体制を整えることで、多くの患者の搬入が可能となる」「ICTの活用は救急医療の向上となる」「何より多くの命を救える」。この3点を、ACESの開発から中田は確信しました。

医療分野のIT化、特に「情報共有」は、電子カルテとして実用化されており、日々の治療に有効です。

レントゲン、CTなどの画像、バイタルサインなどの数値は、電子カルテへ集約されて医師と看護師に患者情報として共有されています。診療科目が異なる複数の医師、看護師、薬剤師に役割分担される状況で、円滑な業務連携を実現しています。

治療方針を確認・確立する毎日のカンファレンス(会議)においても、電子カルテを用い、医療従事者が多角的に検討していきます。患者一人ひとりの問題(症状)を共有して解決(治療)を見出していきます。

こうした情報共有を、院外へも広げる発想を中田は実行に移しました。病院と救急隊の業務連携を円滑にして「救命」へ貢献する「Smart119 救急情報システム」の開発です。

急患者に最初に関わる情報(状況、容態)を共有できれば、救急隊は搬入先病院の決定が速やかになり、受入病院は治療体制を万全なものにできます。

しかしながら、実現には開発コストが重くのしかかりました。

ACESの場合は、千葉大学学内研究費から捻出できましたが、Smart119は、救急隊を巻き込むことで研究開発の対象が広がり、桁違いの開発費用が必要となりました。

そのためにSmart119は日本医療研究開発機構(AMED)が公募する研究費へエントリーしました。結果、「救急搬入のたらい回し」をなくす社会的有効性が認められ、研究費の提供を受けることに成功しました。

社会実装を目的とした千葉市消防局との協働開発では、機能性と導入しやすさを検証していきました。

救急情報システムは、119番通報から病院搬入に至る情報を「消防指令センター」「救急隊」「病院」の3者間で情報共有します。

協働開発は、現実性を帯びたもので、救急・消防通報を受ける消防指令センターと現場の救急隊員からは、情報の入力作業で労力を省きつつも正確で迅速性あるシステムを求められました。

最も有効な手段として、音声認識入力を採用しました。職員は会話の中で通報内容を必ず復唱します。その内容(場所、状況、容態)が自動的にテキスト化され、救急隊員が持つタブレット端末へ自動的に転送されるのです。

現場に到着した隊員は、応急措置を施しつつ、新たに判明した事柄(バイタルサインや容態変化など)のみ、タップ入力で行います。この時点で、病院へ受入要請を満たす情報が整っているわけです。さらに複数の病院へ、一括で受入要請することも可能になります。

救急車内でも刻一刻と変化する急患者の容態をリアルタイムに、病院と共有し、人員の集合、投与する薬剤、専門医の手配など、受入態勢を整えられます。

千葉大学と千葉市消防局による3年間の実証実験を経て、Smart119は、正式に千葉市消防局(司令センター、保有救急車25台)に導入されました。システム名を「Smart119 救急医療情報サービス」として、千葉大学発スタートアップ企業である株式会社Smart119から提供されています。

2021年4月27日に、Smart119救急医療情報サービスは、特許を取得しました(特許第6875734号)。

カンファレンスでは、担当医、専門医、看護師が集い、一元管理された患者情報をもとに、多角的に検討する。「情報共有」を医療スキル向上に、そして患者の快復に活かしている。
情報共有を担うSmart119。住民(急患者)のために、消防指令センター、救急隊、受入医療機関の連携を円滑にする。

医師だからこその責任をもって:誰もが安心できる未来医療を目指して

大学発起業は、単に私利を得る目的ではありません。第一に、研究費助成に依存することなく、収益から開発ができること。第二に、事業計画として開発と販売展開が具体的になること。第三に、事業体として持続可能性を持ち、社会的責任を担うこと。この3点が目的です。

国立大学である千葉大学へ、起業可否の確認をとり、日本医療研究開発機構からも有効性と将来性があり、また社会実装ができることから、「事業化」への後押しを受けて、株式会社Smart119は起業されました。

救急集中治療医が持つ「命を救う」への責任感を、医療現場を改善することへも活かした起業です。

情報共有は「安心」のために

株式会社Smart119では、デジタル技術を駆使する一方で、マンガを用いた一般市民への啓発活動を行なっています。

親近感あるイラストで、生活者へ役立つ医療情報を発信しています。新型コロナウイルス感染症拡大から始まった「マンガシリーズ」は、マスクの着用方法やワクチン、コロナ禍の生活に言及し、20作近くを数えます。

「未知のウイルスから、多くの人々が様々な影響を受けて、心配したり恐怖を感じたりしています。医療で大事なことは、情報がいつも正しく早く共有されることだと考えています。正しい知識は安心を生み出しますから」生活者への情報共有が重要だと中田は話します。

世界中から発信される論文や、知見を、医学者として読み解き、咀嚼して、多くの人にわかりやすく伝えて共有する。「安心できる医療」のために、生活者と情報共有をしています。

生活者が知りたい医療情報を、簡潔に親しみやすいイラストで知らせる「マンガシリーズ」。ダウンロードして、ポスターや配布物として、自由に利用できる。

さらに、安心できる未来医療へ

救急の現場で感じたもどかしさから始まった株式会社Smart119。医療全体を見渡して開発を進めています。

災害などの緊急事態では、罹災者への対応が急務となります。病院職員の安否確認、集合要請、そして救護所へ人員配置を実施する「respon:sum(レスポンサム)」(https://smart119.biz/responsum/)を、また病院勤怠管理システムから医療従事者の“働き方改革”を支援する「Smart:Work」を開発しました。

「respon:sum」では、感染症を「災害」と考えて、職員の健康管理機能を追加し、「感染の予兆」を捉えることと、ワクチン接種前後の体調変化を把握できます。すでに大阪府の大阪急性期・総合医療センター、茨城県さくらがわ地域医療センターに導入されています。

「Smart:Work」では、質の高い医療サービス提供と、職員の健全さを、両立する勤務シフトづくりに、千葉大学附属病院で効果を発揮しています。

そして、「Smart119」には、救急予測アルゴリズムを開発し、基幹システムに組み込む予定です。指令センター、救急隊、受入病院の連携を、より強化し、「救急搬入のたらい回し」をなくすことと、救命率向上を目指します。

医療現場にある課題を克服することにより、地域医療を支え、住民の安心感を醸成します。

研究論文の情報を共有する「Smart:RA」(https://smart119.biz/ra/)、遠隔治療を支援する「Smart:TelMed」(https://smart119.biz/telmed/)など、株式会社Smart119は医療現場の課題から製品開発を行なっている。「未来医療」へ向けて、さらなる開発がすすむ。

エピローグ

「『ピンチはチャンス、チャンスはピンチ』と不意に口にするんですよ」と中田は言います。

救急はピンチであるけれど、命を救うチャンスでもある。研究費助成を得たらチャンスだけれども、成果という責務を負う。こうした中で、知らずしらずの内に困難と克服を繰り返してきた自負からの言葉です。

一つひとつの困難に、実直に取り組み克服する。こうした医学の中で培ってきた考え方を株式会社Smart119の経営にも活かしています。


医療現場発の企業として「誰もが安心する未来医療」を目指す取り組みは続きます。

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